なにせ、出会った時があの体型だったから、すっかり忘れていた ―― 彼女が美少女、それも半端ない美少女だったことを・・・・ 美少女革命 〜 一ノ瀬蓮の場合 〜 「先輩、これは!?」 自分の身体の前に、シャーベットオレンジのワンピースを当てて、勢い込んで振り返ったヒトミの問いかけに、蓮は冷たくすら映る無表情で一言。 「却下」 「ええ〜〜!?」 不満一杯なヒトミの声が、休日で人の多いデパートのショップに響く。 もっとも、これが初めてではないため、驚いたのは近くにいた人だけだ。 遠目にその様子を見ていたショップの店員達は密かにクスクスと笑いを漏らした。 それに気付かないヒトミはワンピースをラックに戻しながら、恨みがましい目で蓮を見上げる。 「カワイイと思ったのに・・・・」 「・・・・・」 ヒトミのついた小さなため息は耳に届いていたが、蓮は聞かなかった事にした。 そして心の中で意地でも口に出せない一言を呟いた。 (・・・・カワイイからだ。馬鹿。) そんな蓮の心の呟きなど知らないヒトミは困ったような顔で蓮をちらっと見て言った。 「私、そんなに趣味悪いですか?」 確かに以前、蓮はヒトミのスキーウェア選びに付き合った時、散々に趣味が悪いと貶した覚えはある。 しかし、その時と今とでは理由が180度違った。 ウェアを選びに行った時は、蓮にとってヒトミは微妙な位置づけだった。 友人と言うには、気安い、けれど特別な関係ではない相手。 けれど、今の彼女は違う。 卒業式に手に入れた大事な恋人なのだ。 しかし、そうなって蓮が気が付いたことがある。 ―― 桜川ヒトミは、『美少女』だったのだということを。 なにしろ初めてあった時が0.1tだったのだから、素地などわかりようもなかった。 それがこの1年、不良保険医の指導の元、目に見えて痩せていき、そして同時に羽化するように綺麗になっていった。 ぷよぷよだった腕や足が引き締まれば、白くて健康的なシルエットに。 二重顎がスッキリすれば、顎のラインの美しさが際だった。 そして無理にダイエットすれば荒れがちな、肌や髪は不良保険医のおかげで健康的に艶やかにと変化して、気が付けばセント・リーフ1の美少女の称号を欲しいがままにしていた東條百合香の座を脅かしそうな程の美少女が一人できあがりだ。 となれば、他の男共が放っておくわけもない。 当然、蓮の心配も自然と増えていくわけで。 (・・・・せめて、洋服ぐらい制限させろ。) 口に出せない言葉をため息に換えて、蓮はヒトミの頭を宥めるように叩いた。 「だから俺が選んでやると言ってるんだ。他にはないのか?」 「え〜っと・・・・じゃあ、これは?」 ぱっと顔を輝かせたヒトミが取ったのは、薄いピンクのスカート。 膝丈だが白いシフォン生地が上に被っている事で、ショートケーキを思わせる。 所々に付いた飾りレースが可愛らしい。 蓮は無言でスカートを眺めて数秒。 「却下」 「ええ〜〜〜〜〜!?これでも駄目ですか?結構カワイイと思うんだけどなあ。」 スカートうぃ眺めて首を捻るヒトミからさりげなく視線を外して蓮は言った。 「フリルが多い。」 ヒトミが着たらきっと誰もが振り向くぐらいに似合うだろう・・・・なんて思っていることは欠片も出さずに。 「ええ!?これぐらい普通ですよ!店員さんに聞いてみれば・・・・」 スカートを握って近くに視線を走らせたヒトミに、蓮はわざとらしく冷たい視線を向ける。 「ほお、お前は俺の意見より他人の意見を優先させるわけか。」 「うっ。そ、そんな言い方・・・・」 困ったように顔をしかめて、ヒトミは今度ははっきりため息をついた。 そのため息の大きさに、さすがにやりすぎたか、という思いが蓮の頭を掠める。 その時、ぽつりと、本当にぽつりとヒトミが呟いた言葉が耳に入った。 「・・・・優先させるわけないじゃないですか。一ノ瀬さんの好みじゃなくちゃ意味ないのに・・・・」 「ヒトミ」 「は、はい?」 名前を呼ばれ慣れていないせいか、微妙に上擦った返事をするヒトミに蓮は近くにあったスカートを取って渡した。 先ほどのシフォンのスカートよりは甘めでない、スッキリとしたオリーブグリーンのプリーツのスカートを渡されきょとんとするヒトミに、蓮は早口に言う。 「スカートならこっちにしろ。」 「へ?あ、はい?でもこれ、シンプルしぎませんか?」 「これくらいでちょうどいいんだよ。」 「・・・・『くらい』?」 ちょっとだけ零れた本音を敏感に拾われて、蓮は無表情に磨きをかける。 そうしなければ、絶対に甘ったるいと表現されかねない表情をする自覚があった。 (ただでさえ・・・・中身がカワイイんだ。『これくらい』でやっと釣り合いが取れるぐらいだろ。) なんて甘ったるい事、頭の中で考えてしまうぐらい、目の前のヒトミが愛おしくてしかたないのだから。 もちろん、まだこの恋の主導権を彼女に渡すわけにはいかないから、そんなに参っているなんておくびにも出さずに 「いいから、早く着てこい!」 「ひぃ〜〜〜〜」 情けない声を上げるヒトミを試着室に押し込んだのだった。 〜 END 〜 |